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さて、その「キャバレー」だが、ライザ・ミネリの歌はオ子チャマにしか感じられないくらいジュディ・ディンチの歌は素晴らしい。
歌う気なんかないんじゃないかと思うほどのぶっきら棒で投げやりな歌い出しから、最後♪Life is a Cabaret~~ と叫ぶような盛り上げ方まで、実にドラマチックな歌い方だ。流石に大女優。
そう、「キャバレー」というミュージカル、ナチスドイツの足音が大きくなっていく時代を背景に持つ作品で、能天気なアメリカのとは違って、ヨーロッパの退廃的な香りと切羽詰まった悲壮感が漂わねばならない。ロンドンキャスト盤には、それがある。ミュージカルは歌(音楽)の力を借りた演劇だという事がよく分かる。
RSC(ロイヤル・シェークスピア・カンパニー)の女優さんが、こんなにもミュージカルの舞台に立っているわけだ。我が国では、芝居畑の役者さん達の中にミュージカルをはなから受け付けないと思い込んでいる人たちが見受けられる。でも、ミュージカルの歌は、芝居心がある人に歌われてこそ花開くものです!
去年、ガラコンサートを開くに当たって、僕は歌の素晴らしさを是非皆さんに聞いて欲しいと思い、東京から素晴らしいゲストを呼んだわけだが、あの時も「歌」の力を信じて突き進んだ。
僕自身、芝居もダンスも大好きなのだが、一番幸せに感じる瞬間は音楽の中に身を浸している時だ。
ミュージカルの面白さ、素晴らしさには色々な面があり、特に『ウェストサイド物語』のジェローム・ロビンズや『コーラスライン』のマイケル・べネットや『シカゴ』のボブ・フォッシーらが台頭しダンス(肉体)の復権が叫ばれて以降、ミュージカルの中でも「踊り」の部分に光が当てられ、芝居も歌もないダンス・ミュージカルが流行の兆しを見せている現在、それでも僕はあえて「ミュージカルは歌です」と声を荒げたい。
今こそ、「歌の復権」を力強く宣言したい。
歌、歌、歌。でも不思議なことに、クラシックやジャズのヴォーカルには心が震えない。ヴァイオリン協奏曲やピアノトリオの方が断然いい。なぜだろう?
ミュージカルにはドラマがあるから。勿論どんな歌にだって歌詞がある。ま、スキャットやヴォカリーズを除いてだが。その歌詞を伝えることに全精力を使うのが、ミュージカルにかかわるスタッフやキャストに課せられた条件。じゃあ、セリフでいんじゃね? と思う人もいるかも知れないが、音楽があってこその物種。
ミュージカルがミュージカルとして成立するためには……だってミュージカルという言葉には「音楽の」とか「音楽的な」とかの意味が入っているし。
僕が桐朋学園の演劇科の学生だった頃、隣の音大に入り浸って勝手に音大生と仲良くさせて貰っていたのだが、ある時ピアノ科の友達(と僕は思っている)が、「ちょっとレッスンして来る」と言って小一時間ほど席を外した。で、帰ってきたら、しばらくいわゆるエアー・ピアノの如く指が勝手にうごめいていた。スケールの練習をしていたそうで、指が止まらないのだ。
それを見ながら大きなショックを受けた。お芝居の稽古で、そこまで反復練習することがあるだろうかと。「芝居ってなんて貧しいんだろう」そう思ってしまった。何かを表現をするために、そこまで基礎訓練をしなければならないことにジェラシーを覚えた。だから、僕は歌やダンスのあるミュージカルの世界に進もうと思ったのだ。
歌も一朝一夕で出来るものではない。そこが素晴らしい!
「歌の復権」にこそ命をかける意義がある。もう一度言う。「ミュージカルは歌です」と。
Jin Tadano
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