今年の3月25日に「歌の復権を!」(コラム13)を書いてから約半年がたとうとしている。
4月開講の「とうおん舞台芸術アカデミー」を立ち上げ、ついこの間開催した「ガラ・コンサート2019」を終えて、やっと一息付けたからなのだが、本当は休む間もなく、10月の末に「高畠華宵大正ロマン館」で行われる「人形の恋物語」が控えているのだ。
でも、去年の9月に第一回のコラムとして「人形と男とバレリーナの恋物語」を書いた手前、どうしても今回上演の運びとなった「人形の恋物語」という作品に関して、何かコメントする必要があるんじゃないかと考えたわけである。
面白いことに、中断直前のコラムの題は「歌の復権を!」であり、その最後には「ミュージカルは歌です!」と大声で叫んでいた。勿論声には出していないのだが…。
確かに僕の人生において歌の占める割合はとてつもなく大きい。詳しくは書かないが、演劇科を卒業してミュージカルの世界に足を運んだ一番の理由は「歌」にあったと思う。そんな男が、得意分野を封印し、セリフも歌も一切ない舞台を作ろうとしているのだから、我ながら驚きだ。と言って別に変ったことをしようとしているのではない。僕自身が18歳の頃から心に温めて来たある思いを、ようやく半世紀たって具体化しようとしているに過ぎない。そう、これは僕が長い間温めてきた一つの夢でもあったのだ。
東温市ってのは変わっている。まだこちらに移住して1年8ヶ月だが、僕の大好きな詩人、坂村眞民さんの記念館に出会い、シアターネストのこけら落とし公演で「しんみんさん」という作品を取り上げる機会も得られたし、これも僕の大好きな画家、高畠華宵の記念館が東温市にあるのを知り、そこに初めて足を踏み入れた途端、まさに僕の望んでいた、永年夢見ていた世界がそこに広がっているじゃないか! もしかして僕は東温市に吸い寄せられて来たんじゃないかと疑いたくもなる。「人形の恋物語」は僕にとっては必然だったのかも知れない。
江戸川乱歩の「人でなしの恋」を始め、人形と人間の恋を描いた作品は少なからずある。まぁ、どれも読んでいて少し後ろめたい気持ちにさせられるのは事実だが、誰でも人間は他人には言えないような隠れた楽しみを持っている。その部分をあからさまにされるのを人は恐れ、ハナから否定しようとするのだが、演劇という具象化された世界でそれをやるのは確かに危険を伴う。いや、危険だからこそやりたい。もっとも今回「音楽とダンスとマイムでつづる妖艶な舞台芸術」と銘打ったように、あくまでも抽象的な世界を繰り広げるつもりではある。
とは言っても、「肉体」以上に直接的な材料はないだろうから、どう転ぶか自分でも測りかねるところだ。ただ、これは初めて書いたコラムで言っているように、絵画や音楽に対する復讐でもある。まさに新しいチャレンジなのだ。
(つづく)
Jin Tadano
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