こないだ何かの本で「愚痴老人」という言葉を目にした。
これから書こうとしているのはまさに愚痴である。しかも老人のたわ言である。
と言うのも、若い人たちのとっては日常であるユーチューブの検索が、僕ら年寄りにとっては悪魔の仕業だと思われる節があるからだ。勿論、それを見れるのは悪いことじゃない。大いに利用すべきだということも分かっている。ただ、もし僕らの若い頃にその映像が見られたら、どんなに……!悔しいなんてもんじゃない、本当に。……単なる愚痴ではあるけれど。
実は4年前くらいに、何をとち狂ったか、自分のライブをやったことがある。60過ぎのおっさんの歌など聞きたくもないだろうが、冥途の土産に、どうしても人前で歌ってみたかったのだ。
ある日、突然一つのメロディが頭の中を駆け巡った。ミュージカルの曲の一節であることは分かるが、何のミュージカルの何て曲だかは思い出せない。で、僕の家のミュージカルのCDを片っ端からかけて、ようやく見つけた。それは『CHESS』というロンドン産のミュージカルの一曲だった。老人が静かに歌うメロディで、何度も聞き返しているうちに、どうしてもそれを歌いたくなってしまった。
それが僕一人のライブに繋がるのだが、他の曲はポピュラー・ソングだけ。ミュージカルの歌を歌うのはコッパズカシイったらない。だってミュージカルの世界を一人で背負い偉そうに役になり切って歌うなんて、考えただけでおぞましいじゃないか! 自分が演出してる場合に役者にそれを強要しているくせに、なんてひどい男だろうとも思うけど仕方ない。
で、十数曲のポピュラーを歌うことになったが、その中で『Try a Little Tenderness』と言う曲が候補に挙がった。もともとはオーティス・レディングというリズム&ブルースの歌手の歌だが、僕は若い頃スリー・ドッグ・ナイトというロックバンドでこの曲を聴いて、自分のバンドのレパートリーにした。
ただ英語の歌詞を忘れて、パソコンで調べていたら、オーティスがこの曲を歌っている動画が出て来たのだ! その衝撃! ショックだった。40数年前、この映像が見れていたら……? 僕らはオーティスの写真を眺め、レコードを何度も聞くことでしか想像できなかった世界が、かくも簡単に手に入ってしまうのか!
そう言えば、ミュージカルの方でも、僕が大切に大切に大切にしていたレコードの曲を、誰もがいとも簡単に聞けることが分かって拍子抜けしたことがあった。自分にとってとても重要な大好きな本が、古本屋で108円の値段で売られているのを見た時の切なさにも似ている。
便利になったのは非常にいいことだけれど、コレクターである僕としては、そりゃ「チキショー!」と叫びたくもなります。本当に愚痴でした。
Jin Tadano
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