昨日YouTubeを見ていて、偶然目にした(耳にした?)のが、庄司紗矢香さんというバイオリニストが弾くチャイコフスキーのバイオリン協奏曲だった。
今から7年前の演奏で、彼女が30才の時のコンサートの実況。何度も聞いたことのあるチャイコフスキーだが、実に新鮮で最後まで聞き込んでしまった。彼女のデビュー当時の演奏を聞いて、なんてすごい高校生が現れものだと驚嘆したことを覚えている。早速手帳に名前を控えたのだが、それ以降僕の志向がジャズに傾いてしまい、庄司紗矢香とは縁のない生活をしていた。だが、昨日見てびっくり。見た目が若いせいか20代前半に見えるのだが、実に表情豊かで一音一音が命をもって聞き手に迫ってくる。しかも指揮者を見て何度も笑顔を振りまいていた。ロシアのオーケストラだったが、指揮者が職人のように彼女のバイオリンに伴奏を付けるだけで、両者のつばぜり合いも融合も感じられなかったのは残念だった。しかし、庄司さんの演奏は見事で、感動的だった。
それで、庄司さんの別の動画を探したら、シベリウスの協奏曲があるじゃないか。コラムの2でも書いたが、僕はこのシベリウスのコンチェルトを宝物のように思っている。ただし、ジネット・ヌブーという女流バイオリニストの演奏しか受け付けられない。オイストラフやハイフェッツなど有名な男性バイオリニストのはまるで好きになれず、名盤の誉れ高いイダ・ヘンデルやチョン・キョンファも悪くはないが、ヌブーの前では色褪せて見える。
昨日、というか正確には今朝、そのシベリウスの映像を見た時、頭をガンと殴られたような衝撃を受けた。彼女の中にジネット・ヌブーの魂を見たのだ。目を瞑って聞くと、何度も何度も聞いていたヌブーがそこにいた。チャイコフスキーの時とは違って、眉間にしわを寄せたような表情なのだが、まさにシベリウス。しかもヌブーの弾いているシベリウスそのものである。天国からヌブーが帰ってきて目の前で弾いてくれているような錯覚に陥った。
これは庄司さんを下げているのではなく、最大限の賞讃のつもりだ。流石にカデンツアは庄司流だったが、他の部分はまさにヌブーだった。第二楽章も第三楽章も。こんな幸せを感じることがあるなんて。大袈裟ではなく生きていて良かったと思った。
シベリウスのコンチェルトは、精神性が高く、男性独特のまろやかさは似合わない。僕は庄司紗矢香の前にひれ伏す事しか出来なかった。しかも指揮者がコリン・デイヴィス。シベリウスのスペシャリストである。僕は携帯の画面でその演奏を聴いたのだが、指揮者と演奏家の作る音楽世界は圧倒的で、空間の広がりは時空を超えて感じられた。日本でも何度か生の演奏をやったらしい。勿論この目で見たいのだが、この若き巨匠をYouTubeで見ることが出来た喜びも何事にも替え難い。僕はこれを今興奮して書いている。
(※画像はhttp://www.sayakashoji.com/より引用)
Jin Tadano
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