運命のニ短調【コラム②】

 

子供の頃クラシック音楽が苦手……と言うか嫌いだった。

何が面白いのかと突き放し、ある意味バカにしていたものである。

 

それが……先日のコラムで一人の画家に衝撃を受けたと同じ頃、大学の……桐朋学園の演劇科に所属していたのだが……カリキュラムの中に歌唱の授業があり、その時だけ隣の音楽大学の校舎に足を踏み入れていた。

その4階が個人レッスン室になっており、なぜそこを通ったのかは覚えていないが、誰かがチェロの稽古をしていて、その音が廊下伝いに僕の耳に入った瞬間、文字通りガッビ~ンと衝撃を受け、その日以降、芝居の授業をほったらかして、音大の視聴覚室に入り浸り、弦楽器のレコードと読めもしない楽譜を借りては一人、クラシック音楽に聞き入っていた。

そこで出会ったのが、ジネット・ヌブーというフランスの女性ヴァイオリニストの弾く「シベリウスのヴァイオリン協奏曲」であった。

 

 

僕にとってはまさに宝物との出会いであり、それからと言うもの、好きになった女性にそのレコードを買って「これが僕です」などと言ってはプレゼントしていたものだ。あまりに恥ずかしい話なので伏せていたが、当時の僕の有頂天ぶりがよく分かる。勿論しばらくしてからは「こうなりたいんです」とかなんとか言って、でもプレゼントは続けていた。嬉しい時や哀しい時、あるいは年をまたぐ瞬間にそのレコードを聴きながら、知らないうちに新年を迎えられればと思ったことも一度ならず、二度はある。

そしてその協奏曲が、ニ短調d-mollだった。その他、シューマンの第4交響曲とかブルックナーの第3交響曲とか、そのほか僕の好きになる曲がなぜかニ短調で書かれていた。

多分、自分に合った調性というものがあるに違いないと思ったのだが、そこんところ、どうなんでしょう?

 

ジネット・ヌブーは若くして飛行機事故に遭い急逝したのだが、彼女の残したレコーディング曲はどれも素晴らしく、幸いCDになったものが数多く聴ける。ところで、このシベリウスの協奏曲、ほかの演奏家のも随分聞いてみたのだが、僕にとってはヌブーを越える演奏には巡り合えず、となると、表題にある「運命のニ短調」は間違いで本当は「運命のヌブー」の方が正解かとも思われる。が、ま、そこは有耶無耶にしておこう。でも、とにかく僕の志向からして長調よりも短調の方が、シャープよりもフラットの方が好きなのは確かなようだ。いや待てよ、モーツアルトの弦楽五重奏曲ハ長調も大好き……ま、いっか。

 

今はミュージカルの世界に身を置きながら、聴くのはジャズがほとんどだが、好きな音楽はと聞かれれば、迷いなく「クラシックです」と答えるだろう。昔の自分からは想像ができない。あの日チェロを弾いていた人(名前も性別も知らないが)には感謝してもし切れない。

 

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Jin Tadano

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東温市は古い上着をなかなか脱ごうとしないそうだ。でも本物の文化は受け入れるだろう。時代は変わり、新しい風が吹き始めている。若者の間に芽生えたこの風潮をしっかりと受け止め、東温市発信のアートを広めたい。

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