ああ 赤テント!【コラム⑦】

 

早稲小の事を書いたら、もう一つ、同時期に僕の心を捉えた「状況劇場」の話をしたくなった。

僕が桐朋学園の演劇科に入ってお芝居の勉強をしていた19歳の時、その頃流行りのアングラ演劇の洗礼を受けたのは、状況劇場が最初だった。渋谷の西武百貨店の裏にあった駐車場に張られた赤テントが、冬の冷たい北風に煽られてパタパタと翻っている中、何か得体のしれない空間に恐怖とも、好奇心とも、高揚感とも言えない不思議な感覚に包まれながら足を踏み入れたのを昨日のことのように覚えている。まさに悪場所であった。

作品は名作『少女仮面』。

テントに座り、イケないものを覗くような目で見ていると、花道を老婆とそれを追う少女が出てきて、開口一番、「ネエ、おばあちゃん、嵐が丘でヒースクリフが愛の亡霊に出会った時、ドキドキすると言っていたけど、アレ、本当はワクワクしたんじゃないかしら?」と聞くと、老婆が本舞台に片足をかけながら少女を振り返り、舌っ足らずな声で『しょれは難問ねぇ』と答えた。

手元に戯曲がないから正確なところは分からないが、大体こんなセリフだったと思う。それが老婆役をやっていた唐十郎との出会いであり、早稲田所劇場も含め、小劇場演劇……アングラ演劇との遭遇であった。老婆が振り返ると同時に、テントのあちこちから『唐ッ!』と声がかかり、お芝居勉強中の僕は仰天し、動転し、昇天した。

その後も次々に色々な衝撃が僕を襲い、この作品でデビューした根津甚八の腹話術氏に、喫茶店のウエィター役の麿赤児がコップに入ったお水をテーブルに置く時の、その暴力的な置き方……水がコップから全部飛び跳ねるような置き方を見て、何だか犯されているような感じになったのもしっかりと覚えている。

その次に見たのが、早稲小だ。赤テントを見た後で、同じように興奮することを期待してみたのだが、白石加代子の神がかった演技に、1時間、瞬きも忘れ、口を空けっ放しにして惚けていた。作品は『劇的なるものをめぐってⅡ』。どうにか間に合った。二つの伝説の舞台に。ただ返す返すも残念なのが、状況劇場に籍をおいていた人形作家の四谷シモンの危ない女形の舞台を見逃したことである。一本前の『少女都市』までは役者として赤テントに生息していたのに……。

とにかく僕の前衛劇体験は、この二つの劇団の驚きの舞台と共にあった。こちらの感性を根こそぎ持って行かれるような衝撃! 現在の「静かなる演劇」とはまるで違う狂気の渦。面白かったなぁ。

状況劇場が超人気劇団になり、赤テントが開かれた後、でもやはり僕の心を捉えていたのは、渋谷での、あのテントのパタパタの中で感じた、痺れる様な快感。背徳感。それが『人形と男とバレリーナの恋物語』に繋がっているんだろう。

でも、ミュージカルとは……?

 

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Jin Tadano

東温市は古い上着をなかなか脱ごうとしないそうだ。でも本物の文化は受け入れるだろう。時代は変わり、新しい風が吹き始めている。若者の間に芽生えたこの風潮をしっかりと受け止め、東温市発信のアートを広めたい。

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