▼こちらの続きです。
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この作品には、もう一つテーマがある。
元々僕が考えていた題名は「人形と男とバレリーナの恋物語」というもので、人形との恋物語の他に、バレリーナが重要な役割を担うのである。バレリーナの存在が今回の歌なしセリフなしの舞台に繋がったのだが、バレリーナにこの恋物語の第三のキャラクターを担わせ、例えば人形と男の恋を運命づける役回りとか、逆に二人の恋の邪魔をする役とか、その物語の中で何がしかのインパクトを与えようとしたわけである。
高畠華宵の作品を色々と見ているうちに、チラシの表に描かれているような、「胡蝶」の絵に強い衝撃を受けた。確かにそれは蝶々の役を踊る一人のバレリーナかも知れないが、その虚ろな表情を見るにつけ、とても大きな悲しみを背負って生きている女性を想像せざるを得なくなったのだ。しかも「破れ胡蝶」という題の数枚の挿絵に出会った時には、それがどんな内容の小説かは分からないが、自分でストーリーを勝手に組み立てたくなってしまう程のインパクトを受けた。
で、片方の羽根をむしり取られた哀れなバレリーナが、心に受けた深い傷を克服して、力強く生きていくまでの再生の物語を付け加えることにしたわけだ。
勿論、人形との恋物語にも関連しないわけではないのだが、果たして、二つの物語がうまく融合するか。それは見てのお愉しみと言ったところだ。僕にとっては初めての、新しい試みに今ワクワクが止まらない。いや、ドキドキが止まらないと言った方が正解か?
僕の初めてのバレエ体験は、体験と言っても見ただけなのだが、中学生の時にテレビで見たマイヤ・プリセツカヤの「瀕死の白鳥」だった。ダンスやバレエに興味のなかった僕が、彼女の首から背中にかけての線の美しさを今でも鮮明に覚えている。あとはジョルジュ・ドンが日本で初めて「ボレロ」を踊った時、それを生で見ているのだが、あの円形舞台でたった一人で踊ったドンがターンをした時、放物線を描きながら飛び散った、彼の汗の美しさと言ったらなかった。全体でなく変なところにばかり目を取られているようだが、そのマニアックな変態性が、今度の作品で生きればいいと思っている。
今は、使用される音楽の選曲作業を進めている最中だが、これも楽しく、かつ苦しい。そのストーリーにぴったりフィットした曲を選ぶとなると、そのステージのイメージをどれだけ喚起出来るかにかかっているわけで、これまた振付経験のない僕には大きなチャレンジではある。ただ、これまで聞いてきたミュージカル以外の音楽とこれほど真剣に取り組むことが出来るのは嬉しい。
しかし、東温市に来て、2回開催したガラ・コンサートといい、今回の「人形の恋物語」といい、大きな試みに挑戦できる環境を得られたことは素晴らしいことだと思う。勿論いいことばかりではないが、東京から離れて良かったと心から言えるようになりたい。
Jin Tadano
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